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どうしたらいい? 気になる親の聴こえ

2018-03-07
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親の聴こえ、気になっていませんか? 
最近、親の聞き返しや聞き間違いが多い。テレビの音が大きい……そんなことを感じている「オヤノコト」世代も多いのでは。
歳だから仕方ないとあきらめる前に、私たち子世代が注意しておきたいことや、聴こえに関する誤解などについて、国際医療福祉大学医学部教授の中川雅文先生にお話を伺いました。
実は聴こえは、40代から少しずつ衰え始めて、最近では「隠れ難聴」の方も。私たち「オヤノコト」世代も人ごとではない聴こえについて考えていきます。

「きく」という動作は、本来、目、耳、脳で「聴く」こと

そもそも、「きこえる」とはどういう状態でしょうか。聴力検査で「ピー」という音が聞き取れれば、「聞こえる」と思っている方も多いと思います。中川先生は、「きく」には「聞く」と「聴く」があり、それぞれ違った意味を持つと言います。
「『聞く』とは、耳に音が入って来ることを示しています。音の存在を検知するのが『聞く』。それに対して、『聴く』は、目や耳、脳を使った日常のコミュニケーションによって、理解することをいいます」。
聴力検査で「きこえる」のは「聞こえる」状態なのですね。
「私たちは、目や耳で情報を取得し、それを脳で分析して解釈して認知し、判断しています。コミュニケーションは、目から取り入れる情報が3割、耳から入ってくるのが7割。でも耳からの情報の大半は無視する、つまりすてる情報です。不要な情報は無視して、必要なものだけにフォーカスするのが耳の働きなのです。」。

この耳の「積極的に無視する力」というのが耳の本質的な働きだと先生はいいます。ノイズなどの音を選択的に無視するための2つのルートをひとはそなえています。
ひとつが内耳。有毛細胞の働きによって雑音は自動的に選別されフィルターにかけられます。
もうひとつが、脳。前頭葉の働きによって、その音に価値があるか意味があるかを判断し、いらない音をノイズと判断し無視しているのです。

増えている「隠れ難聴」とは

ところが、最近「隠れ難聴」という現象が増えているといいます。これは雑音下で聞き取り能力が落ち、集中力も低下するというもので、抑うつの人やADHD(注意欠如多動性障害)の人などが聞こえの困りを訴えることは少なくありませんが、そうした症状の中にも隠れ難聴のような耳の不調が関係しているかもしれないと考えられるようになってきています。「隠れ難聴」は、大きな爆発音にさらされたり、大きな音を長い時間聞いた時に生じます。イヤホンを使ってオーディオデバイスで音楽を楽しむというそんな日常的な局面でも難聴になってしまいます。最大音量の6割以上のボリュームで、1日1時間以上聞いているような人は隠れ難聴になるリスクがあると言えます。耳を休ませることは隠れ難聴からの回復にとってとても大切で。うっかりうるさい音に耳がいじめられてしまったかなと思ったときは、まず耳を48時間休ませるのが良いでしょう。聴力を自己修復させるにはそれくらいの時間が必要だからです。なによりも日々の習慣の改善、うるさい音は聞かない、聞いてしまったら休ませるのが第一です。

難聴は加齢とともに徐々に悪化していくことが分かっています。その最たる原因は騒音です。そこに、高血圧や糖尿病や喫煙などの病気が重なると内耳はうまい具合に自己修復させることができなくなり、聞こえの回復のないままに徐々に悪化していくのです。「現代はあらゆるところに騒音があります。静かな環境が少なくなったことで、内耳の自己修復に必要な十分な時間がなくなってきています。耳は戦略的に自ら守っていかないと難聴になる可能性と隣り合わせにいるのと同じである」と中川先生は警鐘を鳴らします。

では「隠れ難聴」によって聞き取りが悪くなると、どうなるのでしょうか。
「井戸端会議とかスーパーマーケットのような場所での会話の時に聞き返しがおおくなったり、イントネーションや抑揚といったシグナルをうまくひろいあげることができなくなり、同音異義語の聞き間違いとか言葉の中にひそむ感情のシグナルを感じ取るのが苦手になったりします。」。
聞き取りができにくくなった親に、子ども世代はついつい大きな声で伝えようとしますが、これも逆効果だと中川先生。大きな声になると言葉の持つイントネーションや抑揚がなくなります。結局、大きな声は怒って怒鳴っていることと変わりません。親はいつも怒鳴られていると感じて不快になり、コミュニケーションを遮断して抑うつになってしまうかもしれません。「音声コミュニケーションの目的は心を通わせること。それがむずかしくなるようなふるまい、大きな声で解決しようとするのは百害あって一利なしです。」。これまで、まったく逆のことをやっていた編集部も、反省しきり。

中川先生に聞く 親のこんな動作、ありませんか? これは難聴のはじまり?

◆笑顔や感動が少なくなった
豊かなコミュニケーションなしに、笑顔や感動を得ることはできません。
そんなコミュニケーションのかなめは、聞くこと、見ること。聞く力や見る力の衰えによって会話が減ってきたり、ふさぎがちになったりしていきます。
笑顔や感動することが減ってきたかなと周囲が気付き始めた時、それは難聴の始まりかもしれません。

◆テレビの音が大きくなった
テレビの音量は難聴かそうでないかを見きわめる手っ取り早い方法です。子ども世代からみてこれは大きな音だなと思ったらそれはまず難聴が始まっていると疑ってみてください。
しかし最近の大型液晶テレビの場合は、ちょっと違う事情から音量が大きくなっている可能性もあります。例えば、視聴するときの着座位置。座っている場所が悪いだけということもあるのです。今の液晶テレビはテレビの高さの3~5倍の距離で視聴するように設計されています。昔のブラウン管テレビでの着座位置よりもうんと近づいて視聴するように設計されているのです。だから、ブラウン管テレビのときと同じように遠いところから視聴していると、サラウンドで回り込む効果音だけしか聞こえてこなくて、音量を上げてしまっているというような場合もあります。テレビメーカーの推奨する着座位置で視聴することが大切です。部屋のレイアウト的に難しい場合は、別置きのスピーカーを使用するのも良いでしょう。

◆返事をするのに時間がかかる
老化によってあらゆる情報処理や動作が緩慢になってきます。
会話を理解する脳の処理速度もゆったりモードになってきます。
難聴が進み、聞こえの認知力が低下することで、頭の中ではいつもぐるぐる大忙しです。
そのうえ、現代人の会話のスピードは年々アップしてきています。
テレビアナウンサーの話速も10年前に比べるとうんと速くなってきています。
子ども世代の人たちは知らず知らずにそんなテレビの影響を受けて、自分の話す言葉をどんどん速くしてきています。
ですから子ども世代が親と話すときのポイントは、「間」を大事にすること。
句読点をはっきりと、ゆったりゆっくりで会話するようにしましょう。
カタカナ言葉やワカモノことばや音読みの単語などは極力避けて、やまとことばや訓読みの言葉で会話してあげると、理解がいっそうすすみ返事もスムースになるでしょう。

◆会話のスピードが遅くなった
難聴によって小さな音が聞きとりにくくなったり、雑音下からことばを拾いあげることが難しくなると、言葉のキャッチボールをスムースに行うことが苦手になってきます。
そんな加齢と難聴にともなう情報処理速度の低下によって、会話のスピードの遅さがあらわれてきます。
会話のスピードの遅さは、会話を理解するスピードの低下にもつながってきます。ありふれた日常の会話の中ではそうした変化を感じ取ることはなかなかできませんが、新しいことばや情報を取り扱う時には隠れていたスピードの遅さを発見できることがあります。ひとつの目安としてNHKのアナウンサーのことばが聞き取りやすいとか、NHKのニュース番組ならよくわかると好んで視聴するようになってきて、民放のニュースを見なくなってきたら難聴がすでに始まっているのかもしれません。

◆聞き間違いが多い
聞き間違いは誰にでもあります。空耳というのがそれ。聞こえてきたことばを自分にとって都合の良いように聴いたり、なじみのあることばと勘違いしてしまうのは、早合点というもの。それを難聴かなと心配するから必要はありません。
ただし、新しいことばを覚えることが難しくなってきたら要注意です。海外のニュースなどで出てくるなじみのない地名や人の名前。これをなかなか覚えられないときは、難聴が進んできたことを疑う必要があります。
加齢に伴う難聴の特徴は、サ行、タ行、カ行、ハ行などの音素での聞き間違えが増えることです。
「加藤」か「佐藤」かがわからない。「ペンチ」か「パンチ」か「ピンチ」かをうまく聞き分けられない。「ミシン」か「ニシン」かわからなくなってきます。
わざとボケとツッコミのボケをやらかしているのか、本当に聞こえていないのか、本当にボケてきたのかはなかなかわかり辛いところはあります。そんなやりとりが増えてきたらまず耳鼻科で聴力検査を受けることをお勧めします。
 

中川先生に聞く 難聴にまつわるウソとホント

◆独居だと難聴になりやすい?
独居だと会話が減り、刺激も減ります。五感は使うことで認知機能は高まります。目や耳、手などの感覚、どれかひとつでも使わないと感度が落ちるのです。ですから、子世代は親とのスキンシップなど皮膚感覚に訴えるコミュニケーションを大切にしましょう。直接触れなくても、服の着脱を手伝うのでもいいのです。
また、会話するときは耳元でしゃべるのではなく、顔を見てしゃべりましょう。耳元では、音は伝わっても感情は伝わりません。特に離れて暮らしていると、顔の見える会話が少なくなるため言葉の抑揚を感じられなくなります。それが、振り込め詐欺に引っかかる原因にもなるのです。タブレットを利用して、顔互いの表情が見える会話をするのもおすすめです。

◆難聴になると認知症になる?
難聴と認知機能に「相関関係がある」というデータはありますが、「因果関係」があるわけではありません。つまり、難聴だから認知症になる、とは言えないのです。ただ補聴器を使用すればよく聞こえることでコミュニケーションも改善されて、抑うつ状態が改善されますし、聴覚に関するテストを正しく答えられるようになれば認知機能のテスト結果も良くなることでしょう。

◆難聴になるとウツになる?
家族関係が悪化して気分がふさぐという抑うつ状態にはなりますが、抑うつ状態とウツとは別物です。難聴になるとウツになるわけではありません。

◆女性の声より男性の声の方が聞きとりやすい?
聴覚は高音域から落ちていくので、男性の声の方が聞きとりやすいというのは正しいです。しかし、それは音として聞き取りやすいというだけで、感情まで汲み取れるわけではありません。

◆難聴は治る?
難聴は、残念ながら元の状態には戻りません。
予防が最大の治療。
大きな音を避け、耳の酷使をやめ、動脈硬化を避けて、タバコをやめて、有酸素運動につとめる。それ以外に耳を守る方法はありません。

◆難聴になったらどうしたらいい? 難聴にならないためにはどうする?
視力が衰えれば眼鏡でカバーするように、聴力も衰えれば補聴器でカバーしましょう。聴力が60db(デシベル※1)になるまで補聴器を使用しないというのは、視力が0.01になるまで眼鏡を使わないのと同じこと。聴力については、それだけ対処が遅れているのが実情です。耳年齢を調べるアプリも出ているので、自分の聴力をチェックし、悪ければ補聴器を使用しましょう。そして、たばこや糖尿病、高血圧といった難聴を悪化させる原因があれば、禁煙する、薬を使うなどでそれらの要因を除去しましょう。
騒音にも注意。長時間騒音の中に身を置かないようにしましょう。電車に乗っていること自体、85dbの騒音(※2)にさらされていることです。日差しが強ければサングラスをするように、うるさいと思えば耳栓をすることを習慣づけてほしいと思います。音に対して敏感になってください。大きな音の聞き過ぎは危険。自分の身は自分で守るしかないのです。一人ひとりが自分の耳を守るという意識を高めて、安全に聞く習慣を身につけましょう。

対策としては、
・地下鉄のホームに15分以上いない
・オーディオデバイスのイヤホンを1時間以上使わない
・120dbの音を9秒以上聞かない。120dbとは、ロックコンサートなどの最前列のウイング側での音。コンサート会場では耳栓を使いましょう
などがあります。

◆聴こえの悪くなった親にどう接する?
聴こえの悪くなった親に対しては、子どもが耳元で大きな声で話すことは親の聴こえをさらに悪くしている可能性があります。親のために、と大きな声でしゃべるのは逆効果。顔を見ながら小さな声でしゃべることも愛なのです。

※1 聴力レベル
軽度難聴:25db以上40db未満
     小さな声や騒音下での会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する
中等度難聴:40db以上70db未満
普通の大きさの声の会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する
高度難聴:70db以上90db未満
     非常に大きい声でないと補聴器なしには聞こえない
重度難聴:90db以上
     補聴器でも聞き取れないことが多い

※クリックで拡大します

お話をお聞きした人

中川雅文先生
国際医療福祉大学医学部教授〔耳鼻咽喉科〕
1986年 順天堂大学医学部卒業。医学博士。
順天堂大学医学部講師、私学事業団東京臨海病院耳鼻咽喉科部長、順天堂大学医学部客員准教授、みつわ台総合病院副院長などを経て現職。
ためしてガッテン、ホンマでっかTV、BSJapan Nikki +10などメディアへの出演多数。
主な著書『耳の聞こえがよくなる! 3分トレーニング』(PHP研究所)、『聞かせるだけで子どもの「集中力」と「考える力」が同時に伸びるCDブック』(PHP研究所)、『「耳の不調」が脳までダメにする』(講談社+α新書)、『耳がよく聞こえる!ようになる本』(河出書房新社)ほか多数
中川先生のブログはコチラ「こちら難聴・耳鳴り外来です!」

 

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ライター:坂口鈴香(Suzuka Sakaguchi)
20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆 してきました。これまでに訪問した親世代の施設は100カ所以上、お話を聞いた方は数えきれません。今は「オヤノコト」が自分のコトになりつつあり、自分の変化も観察しているところ。

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