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働く人をアシストする「マッスルスーツ」は、暮らしの“必然”から生まれた

東京理科大学教授・株式会社イノフィス 取締役 小林宏氏インタビュー

2020-07-30
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在宅で介護している人や、介護現場で働く人の多くが腰痛に悩んでいます。腰を痛めて、介護職を辞めざるを得ない人も少なくありません。介護現場だけでなく、力仕事をしなければならない人の体の負担を減らすことができれば、人手不足の解消にもつながるのではないでしょうか。
 
さて、今回の「ヒトゴト」でご紹介するのは、腰の負担を軽減したり、力仕事をサポートしたりするアシストスーツ「マッスルスーツ」を開発した、東京理科大学教授で株式会社イノフィス取締役の小林宏氏。開発に当たっての想いや経緯について編集長の大澤尚宏が聞きました。

チャレンジではない。開発は必然

東京理科大学教授 株式会社イノフィス 取締役 小林 宏

大澤
私たちオヤノコトネットは2008年から「オトナ親子」に向けたモノやサービスの情報を発信していますが、高齢世代に対する想いを持ってモノやサービスを開発し提供している企業は多いにもかかわらず、サプライヤー自身で認知度を上げ、必要とする人に情報を届けるのは難しいと感じています。そんななか、先日家電量販店で「アシストスーツのマッスルスーツ」が売れていると聞き衝撃を受けました。なぜなら、実はそのときまで、「マッスルスーツ」のことを知らなかったんです!
そこで、小林先生がどんな想いでこの商品を開発されたのか、お話をお聞きしたいと思って今日は伺いました。
 
小林(以下、敬称略)
私が「マッスルスーツ」の開発をはじめた20年前は、小型二足歩行ロボットが脚光を浴びていました。こうした人型ロボットを開発する国家プロジェクトに多額の予算がつき、2020年には非製造用のロボットが自動車産業なみに発展すると言われていたんです。国中が、人型ロボットがあれば何でもできる!と期待していた時代でした。
さかのぼると、その15年ほど前から極地や原子炉などの極限で作業するロボットの開発が進められていました。95年に阪神淡路大震災が発生し、災害時に人を救助するロボットの開発にも力が注がれました。ところが、その結果は東日本大震災の津波による福島第一原発事故を考えれば一目瞭然。そうしたロボットが福島で活躍することはありませんでした。
私は、人型ロボットがもてはやされていたころから、技術的に歩くことはできても、人を助けることなどできるわけがないと、懐疑的でした。だから私は、“人に役立つもの”を開発したかったんです。じゃあ、生きていくうえでイヤなこととは何か?と考えると、私にとってそれは、自立できないことでした。だったら、自立できるようにする装置をつくろうと考えたんです。

最新モデルのマッスルスーツEvery

大澤
たしかに、私たちが2008年に開催した「オヤノコト.エキスポ」でも、大手自動車メーカーが歩行補助する支援ロボット的なアタッチメントを出展したことがありましたが、未だに実用化には至っていません。数年前にも、別の家電メーカーが付けるだけで膝のトレーニング?ができる製品を発売しましたが、軌道に乗らなかったようですね。このように大手メーカーがチャレンジしても成功しないという実態を、私も目の当たりにしています。そんななか、先生が開発された「マッスルスーツ」は実績が出ているということなんですが、チャレンジするにあたってどういう想いがあったんでしょう。
 
小林
私はチャレンジしているつもりはありません。私にとっては「必然」なんです。それまで国が多額の予算をつけて、大企業が開発してもモノにならないことも多く、私は国からお金に依存しないで開発しようと思っていました。本当に世の中に必要とされるものなら、企業がお金を出してくれるでしょう。となると、企業から「これは世の中から必要とされている」と思われないといけません。そのために、ユーザーと密にコミュニケーションをとって、必要とされるものをボトムアップで開発してきたんです。 一番売れた要因は一般家電なみに値段を下げたことですが、機能的にも他社に負けるわけがないと自負しています。だからユーザーに受け入れてもらえるのは当たり前のこと。売れる売れない以前に、必要とされるものをつくれば売れるという確信がありました。
 
大澤
なるほど…お話しを伺う限り、小林先生はこの国では完璧なチャレンジャーだと思います。
「無から有を作り出す」これこそが進歩につながるのですが、なかなか動かない日本でそれが必然というお考えにはすこぶる賛同します「ユーザーに寄り添う」という現場感覚が大切なんですが、先生がそれを徹底しているからこそ成功したのでしょう。
 
小林
そうですね。ユーザーの役に立つものをつくるには、課題を明確にして、答えをソリューションという形にする。当たり前のことをやっているだけで、それがエンジニアの本懐でもあります。もちろん技術的にはできないこともありますが、いっしょに開発していく段階で相手にちゃんと納得してもらえます。

エンジニアとしての矜持。国の補助金に期待しない

「オヤノコト」編集長 大澤尚宏

大澤
ロボットの例に限らず、私も国のお金をもらってやってきた事業が軌道に乗らないケースは山のように見てきました。ある意味、税金の無駄使いじゃないかなと思うことも多々ありましたし、弊社の「オヤノコト」事業も、「本来は国がやるべき事業」などと揶揄されることもありますが、公的な補助金とかはもらっていません。小林先生も、「国からの補助金をもらわない」という信念をお持ちですが、それはどこからきているのでしょうか。もう少し詳しく教えていただけますか?
 
小林
私たちは誰でも歩けるようになる歩行器の開発をしているのですが、ある障害者施設に行ったときにこんなことがありました。長年寝たきりのような生活だった方たちが歩行器を試されて、「何年ぶりかで立って、歩けた」と涙を流して喜ばれたにもかかわらず、「ほしくない」と言われるんです。その理由が「本当に良いものなら、いずれ国が補助してくれるので、無料で使えるようになる。それまで待つ」と。電動車いすが広がらないのも、国からの補助が出ないからです。日本の医療福祉は保険ありき。それが問題だと痛感しました。だからこそ、私たちは保険や補助金がなくてもやれるものを、できるだけ安い金額でつくろうと考えたんです。それがエンジニアの腕の見せどころでもあるという信念でもありますが…。
 
大澤
日本は昔ながらの「措置」という考え方があって、何かあればお国が助けてくれるという文化なんですね。それが福祉機器の健全な成長を阻害してきたがゆえにグローバルで戦える福祉系メーカーは皆無と言っても大袈裟ではないでしょう。先生が指摘されているとおり、介護も保険ありき、まさにそのとおりです。今や介護保険も財政的に非常に厳しくなってきており、いずれは福祉用具貸与(レンタル)も、要支援~要介護1、2までは対象から外されるだろうと以前から言われています。そうなると、完全な市場化、つまり消費者が購入するという市場競争に晒され、レンタル事業者の50%はやっていけなくなると言われてますね。そういう現実からみれば、やはり先生のお考えには大賛成ですが、充分チャレンジングですよ(笑)
 
小林
私は開発の段階から、産学で新しいマーケットを作るという新しいやり方を示したいんです。日本の高度経済成長はメーカーによってなされました。しかし、メーカーに余力がない現在、これからは私たち大学がやらないといけない。それには企業と大学が組んで研究開発を進めるのがいいと考えています。企業の人件費を大学の研究費に向けてくれれば、相当な開発ができるでしょう。日米のカルチャーが違うとはいえ、企業はアメリカの大学には日本より1桁多く研究費を出すんです。日本の大学の実力を知ってほしいし、大学としてももっと発信していかなければならないと考えています。
 
大澤
私の目から見ても、日本は横の連携が本当に苦手で、それがゆえにグローバルスタンダードからも遅れを取り、消費者にとっても便利、快適なモノが世に出にくい環境だと痛感することがあります。今、超高齢+人口減少という危機でもあるので、産学協同という発想で国が一丸となるべきでだと思いますが、学問と商売を相いれさせてはいけないという古臭いイメージ(文化)もあるのかもしれませんね。
 
小林
なるほど、ただ、私は大学側にも問題はあると思っています。ものづくりに関して学会での発表はたくさんあるのに、実用化されるものはほとんどありません。せめて1、2割は製品になるべき。もちろん、アカデミックなものと決別するわけではなく、役立つものをつくることもとても大切。それには売れないといけないとも思っています。
 
大澤
先生のような存在は、学問の世界では異端児なのではないですか?
 
小林
そうですね(笑)。でも、そう思われたほうが勝ちだとも思っています。

「メイドインジャパン」の新しい技術を世界に発信したい

大澤
これは極めて日本的な発想でもあるのですが、高齢の親は、子どもが近くに住んでいても、なるべく迷惑をかけたくないという思いが強いようです。例えば、歩いて5分くらいのところに息子が住んでいるのに、庭の手入れ、草むしりなどを息子たちに頼まず、便利屋さんに頼むというお母さんの生の声を何人もから聞いたことがあります。それが頭の中にあったので、先生の開発された「マッスルスーツ」を知った時、そういうお母さんにとっては便利な機器になりそうだなと直感しました。ある意味、日本人だからこそ高齢者が使える機器というポテンシャルがあるのかもしれません。自分でできなくなることへの不安も大きい高齢の親世代にとって、「マッスルスーツ」のような技術がサポートしてくれれば、「自分でやろう」という自信にもなります。まさに、この「マッスルスーツ」はそんな親世代に精神的にも寄り添うものだと思いますが、そういう潜在的ニーズがある人にもっと知ってもらえるといいですね。
 
小林
まさに私も自立を支援するものをつくるという、精神的なところから開発をスタートしました。自分が動けなくなるまでには、理想の製品を完成させたいと思っています。
 
大澤
私も先生のこれからにも大いに期待しています。今後のビジョンを教えてください。
 
小林
まずは、アシスト技術については、「イノフィス社のものなら間違いない」と思ってもらえるようなブランドにしたいです。現在も多数の製品の開発をしていますし、多くの方から相談をいただいていますが、そういう方に満足してもらえるものをつくりたいですね。
 
大澤
「ブランドを作る」はこれからのビジネスにとってとても大事なことですが、これからはグローバルに戦う時代だと思います。「マッスルスーツ」の海外展開は考えていらっしゃいますか?
 
小林
すでに台湾には展開しています。目標は世界制覇です! 日本人の繊細さやものづくりのDNAは、世界的にも抜きん出ています。「メイドインジャパン」の新しい技術を発信していきます。
 
大澤
「オヤノコト」もコンセプトと一緒にアジアをはじめとする海外展開をいずれしたいと考えていますが、今やかつてのようなパワーのない「メイドインジャパン」を世界に発信するというビジョンに共感します。 いずれ、ご一緒に出来たらいいですね。 今日は本当にありがとうございました。
 

(2020年7月3日)

対談を終えて

編集長より

今回取材したマッスルスーツ、独居老人が増える日本でこれからニーズが 高まると思う。ただ、もう少し装着を楽にしてあげれば女性の高齢者でも使いやすくなるだろう。特に女性の高齢者独居や老老介護(在宅)が増えることを考えれば、意外 に面白い展開になるかも・・・。それにしても、開発者の小林先生は「チャレンジではなく必然」とさらっとコメントしてくれたが、コンサバティブな日本社会ではある種、エッジの立った異端児だ。だが、これからの時代、そういうチャレンジングな人が活躍できる社会 にしていかないと山積する課題は永遠に解決できないのだろう。

編集長より

小林宏氏

東京理科大学 教授
株式会社イノフィス 取締役  

1990年東京理科大学工学部機械工学科卒業。1995年同大大学院博士課程修了(博士(工学))。 1992年から3年間、日本学術振興会特別研究員、1996年から2年間、日本学術振興会海外特別研究員としてチューリヒ大学:AI Lab に所属。1998年東京理科大学工学部機械工学科講師、1999年から同助教授、2008年から同教授。「生きている限り自立した生活を実現する」ための装置の開発を最終目的に、大学発ベンチャー株式会社イノフィスを2013年12月27日に創業しマッスルスーツの販売を開始

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